-焼成煉瓦-Local Burnt Bricks -建築士2020.5月号

表紙:AU dormitory
設計監理・小林一行+樫村芙実/TERRAIN architects 写真:Timothy Latim
カンパラ郊外にあるアフリカの学生のための寄宿舎。地産のレンガを仕上げとRC壁柱の型枠として用いながら、現地で入手可能な素材を組み合わせた構成としている。

ワインやコーヒーの生産者・愛好家の中でよく知られた「テロワール(terroir)」という言葉、概念がある。ブドウや豆の品種のみならず、それらが育つ土壌や気候などの自然環境上の特徴が、ワインやコーヒーが口に含まれるとき、つまり味・質に大きく影響するというものだ。ラテン語の「terra=土、大地」という言葉から派生したこの概念は、地(=風土・地域)の持つ環境が、農産物のみならず多くのモノの質や特徴に強く結びついているということを思い出させてくれる。

建築に置きかえてみると、「自然環境上の特徴」だけでなく、利用者・設計者・施工者などの「人」、その建築が経つ「時」がその建築に大きく影響を及ぼしている。現れ方は違えども、これらの要素が互いに影響し、初めてその建築が成り立っていると言ってもいいだろう。

都市機能が急激な変化の真只中にあり、交通網を含めてインフラが未発達・不安定な内陸国のウガンダにおいては、首都からの物理的な距離によって、その建築が建つ地域や環境、建築に関わる要素が大きく違う。
特に建材に目を凝らしてみると、その地域において特徴的なものばかりでなく、様々なルートを通ってその場にたどり着いたものが入り混じっている。カンパラ近郊では中東や隣国ケニアなどから輸入された製鉄材や、ガラス、樹脂系の素材、セメントなどが簡単に手に入る中、いまだにウガンダで最も身近で汎用性のある建材といえば手造りの焼成レンガである。頻繁にレンガを造る場面に出くわす。

焼成レンガ自体を積んで作った窯の様子

土を鍬で掘り、水とこねて型枠に入れる。型枠から外したものを草叢の上に並べ、枯れた草木を日よけとしてかけてしばらく乾かす。その後、乾いたものを積んで行き、それを窯として薪で焼いていく。土の色、型枠の大きさは地域によって違い、造る人の技術や癖、焼き加減で一つ一つのレンガの色味や形も変わってくる。
サイズがいびつで色むらのあるこれらのレンガ一つ一つは、工業製品に溢れた社会から見れば魅力的だが、強度や質もまばらでそのままでは使える箇所は限定的である。結果的に、これらのレンガはモルタル等で覆われ塗装されることが多い。地産のレンガの魅力を引き立たせるには、鉄、ガラス、コンクリートといったどこにでも手に入るような材料との共存、またそれらをどう使い分けるかというアイディアも同時に重要だ。

発達した流通システムに甘んじ、欲しいものが何でも手に入る都市生活を「地産地消」という言葉はチクリと批判しているように感じる。何が本当の「地産」なのか?自然素材や土地に根ざしたものに立ち返るだけでなく、今、そこにある要素が出生や新旧に関わらずどう影響し合うのか、また人はそれらをどう享受するのか。様々な状況が蠢くように変化していく時代の中でで、建築をかたちづくる作業にも「テロワール」という概念がとても重要だと考えている。

粘土質のレンガを型枠から出す様子