気候と建築 -建築士2020.9月号

表紙:木陰で談笑しながら食事する人びと。やま仙/Yamasen Japanese Restaurantにて
撮影:Timothy Latim

ウガンダの朝は爽快である。首都カンパラではまだ暗い朝5時半頃、モスクからのアザーン(礼拝を知らせる放送)が聞こえてくると少しずつ東の空が白み、澄んだ空気の中に遠方の丘が見えてくる。家々からは朝食のお茶を沸かす煙が上がる。そんな風景を前に、少し肌寒いバルコニーで鳥の鳴き声を聞きながら飲む地産のコーヒーは格別だ。10年前一面緑だった丘を家々が埋め尽くすような変化を見る一方、朝の心地よさは変わらない。

A view of the hills outside Kampala.Ten years ago, there were almost no buildings and the area was green.カンパラ郊外の丘の様子。10年前、ほとんど建物はなく緑が広がっていた。

赤道直下にありながら標高は約1.2kmと高いため、一年を通して平均気温が30°Cを超えることはない。そのため日中の日差しは強いが、日本をはじめアジア諸国の高温多湿の夏とは比べものにならないくらい快適である。どれだけ暑い日でも、日陰・木陰に腰を降ろせば涼しく、南部に広がるビクトリア湖の温度上昇に応じて吹く風が暑さを和らげてくれる。空気が乾燥しているように感じるが、降雨量が200mmを超える月もあり、緑が豊かで農作物もよく育つ。かつて植民地支配をした英国のチャーチル卿が「アフリカの真珠(Pearl of Africa)」と言ったのにもうなずける。

この快適な気候の中で、人々の暮らす一般的な家の多くは、レンガ造の壁にトタン屋根が葺かれた簡素なものであり、一見しただけでは気候に則していると思えないものだ。開口部が小さく、室内は暗く風通しは悪い。しかし、安価という理由だけで選ばれているように見えるトタン屋根は、晩にぐっと気温の下がるこの地域に適した素材である。蓄熱せず冷めやすい屋根は、夜になり室内で寝るときの快適性を考えれば適切な選択なのだ。日中の室内は決して快適とは言えないが、むしろそのせいで、自然と風や空気を求めて外にでてきている様子が多くみられ、人々は戸外で快適さを享受している。これがこの地域に適した「かたち」でもあるように思うのだ。

料理やミシン仕事をするお母さんの姿、勉強をする子どもたち、近所の人とゲームに興じる男たちやビール片手に一日中椅子に座っている老人。路地を歩けば、日陰の中で爽やかな風を感じながら各々の時間を過ごす姿に出会う。炊事場や水道も大抵外にあり、顔を洗うにも歯を磨くにも一旦外にでる。内と外を何回も行き来することで1日の生活は成り立っている。あなたにとって家とは?と聞いてみれば、それは建物そのものではなく、面する路地はもちろん、近くの木の下くらいまで、と自然に言える生活風景がある。

世界中が直面する気候変動の影響はウガンダにも及んでいるが、気候とおおらかに付き合い、生活する姿は、多くのことを教えてくれる。

建物の外に出て勉強をする子どもたちと教えるお母さん。